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大阪地方裁判所 平成5年(ワ)9316号 判決 1994年10月07日

原告

岩名政子

被告

関西中央交通株式会社

ほか一名

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告らは、原告に対し、各自金七〇一万九八二〇円及び内金六五一万九八二〇円に対する平成四年一一月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、交通事故で傷害を負つた原告が、加害車両の運転者に対し民法七〇九条に基づき、保有者に対し自賠法三条に基づき、それぞれ損害賠償請求(一部請求)した事案である。

一  争いのない事実など(証拠及び弁論の全趣旨により明らかに認められる事実を含む。)

1  事故の発生

(1) 発生日時 平成四年一一月一九日午後八時二〇分ころ

(2) 発生場所 大阪市都島区都島中通一丁目一三番四号先路上(以下「本件事故現場」という。)

(3) 加害車両 被告関西中央交通株式会社(以下「被告会社」という。)保有、被告福永正人(以下「被告福永」という。)運転の普通乗用自動車(タクシー、大阪五五き五八九〇、以下「被告車」という。)

(4) 被害者 自転車(以下「原告車」という。)に乗つていた原告

(5) 事故態様 本件事故現場で原告車に乗つた原告と被告車とが衝突し、原告が受傷したもの

2  原告の受傷、治療経過、後遺障害(甲二の1ないし9、三、弁論の全趣旨)

原告は、本件事故により、頭部外傷、右下腿骨開放性骨折、左下腿骨骨折、左鎖骨骨折、左肋骨骨折、左外傷性気胸、左前腕骨骨折の傷害を負い、聖和病院に平成四年一一月一九日から平成五年八月二二日まで二七七日間入院し、同月二三日から平成五年一二月一〇日まで通院(実通院日数二一日)し、同日症状固定した。右症状固定時の後遺障害は、左手関節の変形、右下腿周囲の変形、右下肢長の三センチメートル短縮(右下肢長七三センチメートル、左下肢長七六センチメートル)で、自覚症伏としても右下腿のしびれ、痛み、両膝痛が残存し、自賠責保険で併合七級と認定された。

3  責任原因

被告会社は、被告車の保有者である。

4  損害の填補

自賠責保険から、原告に対し、傷害分一二〇万円(内、九九万九四〇〇円は、平成四年一一月一九日から同年一二月三一日までの治療費である。)、

後遺障害分八八一万円の合計一〇〇一万円が支払われた。

二  争点

1  被告福永の過失責任、過失相殺

(1) 原告

本件事故は、被告福永が本件事故現場を制限速度(時速五〇キロメートル)を超える速度で、前方注視を怠つて北から南に進行したため、自車前方約一三・九メートルに本件事故現場道路を西から東に自転車に乗つて横断中の原告を発見し、ハンドルを切るとともに、急ブレーキをかけたが及ばず、自車前部を原告に衝突させた。

(2) 被告ら

被告福永の過失は否認する。

仮に、被告福永に過失が認められるとしても、本件事故は、被告福永が被告車を運転し、夜間、幹線道路(片側二車線)を北から南に向け進行中、本件事故現場北側の、信号機により交通整理のなされている交差点を対面信号が青であることを確認して通過したところ、対向車線上に右折待ちのため四台連なつて停止していた車両の後部陰から突如原告が自転車に乗つて、被告車の一三・九メートル前方に飛び出してきたため、被告福永の回避措置も及ばず、被告車と原告が接触したもので、本件事故現場付近の道路が歩行者横断禁止場所であつたこと、本件事故現場北三三メートルには横断歩道もあつたことによれば、大幅な過失相殺がされるべきである。

2  損害額

第三争点に対する判断

一  被告福永の過失、過失相殺

1  証拠(乙一、二、原告本人、被告福永本人)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実がひとまず認められる。

(1) 本件事故現場は、別紙図面(以下、地点の表示はこれによる。)のとおり北から南に延びる道路(以下「本件道路」という。)の南行車線上の<×>点である。本件事故現場付近の本件道路は、中央線が設けられ、片側各二車線で両側に歩道が設置されており、最高速度は時速五〇キロメートルに規制され、アスフアルト舗装された平坦な道路である。車道幅員は路側帯を含め、北行車線が七・三メートル、南行車線が七・二メートルである。

本件事故現場の約一八メートル南には、本件道路に西から突き当たる道路(以下「西道路」という。)が、本件事故現場の東側には本件道路に東から突き当たる道路(以下「東道路」という。)がある。本件事故現場の約三三メートル北には信号機により交通整理のなされている交差点(以下「北側交差点」という。)があり、横断歩道がある。また、本件事故現場付近は歩行者横断禁止の規制もされていた。

本件事故発生当時、本件事故現場付近の路面は乾燥し、やや明るい状態であつたが、南進車両からの西道路、東道路の見通しは悪い状態であつた。実況見分がなされた本件事故当日の午後九時過ぎから約一時間の内の三分間の交通量は四〇台程度であつた。

(2) 被告福永は、被告車を運転して、本件道路の南行第二車線を北から南に進行して本件事故現場付近に至つた。被告福永は、本件事故現場付近で、本件道路を自転車に乗つて横断中の原告を発見し、急ブレーキをかけるとともに、ハンドルをやや左に切つて衝突を回避しようとしたが、及ばず、<3>点で<イ>の原告車左前部に衝突した。

(3) 原告は、西道路を進行して、本件道路に至り、東道路に進入すべく、自転車に乗つて本件道路を横断中に被告車に衝突したが、衝突まで全く被告車に気付かなかつた。

(4) 被告車は衝突後、六メートル進行した<4>点で停止し、原告は<ウ>点、原告車は<エ>に転倒した。なお、本件事故現場に、被告車の左車輪による約九・七メートルのスリツプ痕(点~点)が第一車線から第二車線にかけて残存していた。被告車には右前バンパー打突・擦過痕、右フエンダーミラーのミラー破損及び取付ステー曲がり、右前フエンダー凹損等の損傷等が残り、原告車には前輪タイヤ曲損、左前かご曲損等の損傷が残つた。

以上の事実が認められる。

2  被告福永は、本人尋問、実況見分(乙一)の指示説明において、本件事故現場付近を時速約四五キロメートルで進行中<2>点で、右折待ち停止車両の後方から進行してきた原告車を前方一三・九メートルの<ア>点に発見して、急ブレーキをかけ、左ハンドルを切つたと供述あるいは指示説明するところであるが、原告車を発見した時の被告車の位置とスリツプ痕開始位置との距離が約九メートル(乙二)、スリツプ痕が九・七メートルであること、本件道路が乾燥していたこと、双方車両の損傷の程度によると、空走距離、制動距離、損傷程度の間に矛盾はなく、これらによると時速五〇キロメートルを超えて走行していたとは認められず(運転者の反応時間を〇・七五秒程度、路面タイヤ間の摩擦係数を〇・七とすると、空走距離から推認される速度は概ね時速四三キロメートル、制動距離から推認される速度は概ね時速四二キロメートル程度となる。)、原告車を発見した際の原告車・被告車の位置、速度についての被告福永の供述部分は信用することができる。

しかしながら、被告福永が前方注視をしていれば、自転車に乗つた原告を、右折待ち停止中の車両の後方に確認することは可能であつたというべきで<2>点に至る前に原告車を発見し得た蓋然性が認められ、被告福永の前方注視義務違反が認められる。

3  ところで、北側交差点の被告車の対面信号表示について、被告福永は青であつたと本人尋問において供述するところ、原告は赤であつたと主張する。しかしながら、原告は本人尋問において、横断前に一旦赤であつたと供述しつつ、道路を渡り始めた時の信号は確認していなかつたと供述するものであり、北側交差点の信号を被告福永が無視したとは認めることはできない。

4  右によれば、本件事故は、被告福永の前方不注視の過失によつて発生したものではあるが、原告にも、夜間、優先路である幹線道路を、進行車両の動静を確認することなく横断した落ち度も重大で、少なくとも六割の過失相殺は止むを得ないというべきである。

二  ところで、原告の主張にかかる本件事故による弁護士費用を除く総損害額は一九六五万一四二〇円であるところ、仮に右主張が認められても、これに自賠責保険から支払われていたため本件において未請求の治療費九九万九四〇〇円を加算した二〇六五万〇八二〇円について、前記過失相殺により六割の控除をすると、原告の損害額は八二六万〇三二八円に止まり、前記のとおり、自賠責保険から支払われた一〇〇一万円ですでに填補されていることになる。

以上によると、その余の点について検討するまでもなく原告の本訴請求は、理由がないことになる。

(裁判官 高野裕)

交通事故現場図

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